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2012.08.24

海まで散歩しよう、とナージャが言った。
かねてから自分の足でじっくりウグレゴルスクの街を歩いてみたいと思っていたので、二つ返事でアパートをでた。街の道路は役場のある中心部を数百メートルも進むと、舗装されていない土の道になる。港には貯炭場があり、近郊にある炭坑からの大型トラックが一日何度も行き交うため、その重さであちらこちらがえぐられている。からっとしているが、それでも晩夏にしがみつくような暑さに相まって、舞った土埃で息がしにくい。裏道へまわろう、と大きな道を外れると、枯れた草はらの中にぽつんと5階建てのアパートが立っているだけで、他に民家はない。アパートを通り過ぎようとすると、最上階の住人が声をかけてきた。海の方向を指差しながら一言二言、何かを話すと、ナージャは手をあげて挨拶し、わたしの前を歩き出す。海まで先導をきってくれるらしい。なにしろ、アパートの半径50メートルを出ると、そこは腰高くらいまで草が生い茂っているので、道無き道を進むのは大変だった。ナージャがずんずん進んで行くのでわたしも足を早めついて行くと、突然、ぬかるみに足をとられた。前方からも、ナージャの「オイ!」という声が聞こえた。どうやらナージャもはまってしまったようだ。泥がじわっと靴下までしみてくる。買ったばかりの靴はぷーんとドブくさい。
そういえば、海のすぐ近くに沼があるのをいつも高台から眺めていた。足下の緩んだ地面を見て、その一帯は日本時代「沼ノ端」と呼ばれていた地区だったことも、思い出した。