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2012.08.24

ドアをあけると、白髪のロシア人男性が立っていた。きっとナージャの夫であろうと想像したが、サハリンに3回来ている中で、よくよく思い返せばロシア人男性と接するのはその時が初めてで、すこし緊張した。わたしの想像の中のロシア人男性は祖母のいう「ロスケ」のままだったからだ。体は大きく、しかめっつらに、口はかたく結ばれている。赤い肌というイメージそのままだった。わたしの持っていたスーツケースを「ダワイ」と言って少々乱暴に手からとった。クスリとも笑わないので、ますます体がこわばった。
ナージャがふいに「ノンベエー」と叫んだ。
するとナージャの夫はやめろ、という手振りで部屋から出てくる。ナージャは構わず「ステフ、ノンベエ」と満面の笑みを浮かべながら、夫を指差している。「ノンベエ」は下向き加減に、もういい、という手つきでキッチンへ向かうと、冷蔵庫から取り出した茶色いペットボトルを、2杯のマグカップにそれぞれたっぷりそそいだ。ひとつをわたしにくれるという。ありがとう、と受け取り一口飲むと、少し甘めの気の抜けたビールだった。