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2012.08.26

正午をすぎた頃、オリガがいそいそと身支度を始めた。どこへいくの、と聞いたら、仕事だという。オリガは街のキオスクで働いている。家から歩いて5分もかからない、本通に面した店だ。小さなキオスクには冷凍の肉や、果物、野菜、菓子類、飲み物、出来合いのちょっとした総菜や、更には醤油やみそまで、食べたいと思う物はほぼなんでもある。それにしてもだ。オリガの格好が素敵すぎる。花柄のワンピースに清楚な白いジャケットをはおり、アクセサリーをつけ、まるで今からパーティーに行くような格好だ。この街に、日本でいう娯楽施設と呼ばれるものはないに等しい。若い人たちは店先の階段でたむろしているか、仕事をするか、友達の家で世間話をしたり、ネットサーフィンをしている。街にはビリヤードやダーツ、夏にサーカスがやってくる以外ほぼなにもない。映画館も1組のカップルのために貸し切り営業状態なところを見ると、あまりメジャーな余暇の過ごし方ではないのだろう。あとは片手で数えられるくらいしかない街のレストランが、夜になるとクラブに変わったりするくらいだ。それでもここで暮らしている。物欲を満たすために金を稼ぎ、少しの努力で物を手に入れ、「生きる意味とは」などと問いながら東京で日々を送っている自分が、この小さな街でのオリガの暮らしをおもうことは、今は想像の範疇でしかないと思う。