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2010.08.20

州都ユジノサハリンスクからウグレゴルスクまでは車で6時間程かかる。ユジノサハリンスクから北上し、東海岸線上にあるブズモーリエの街を抜けるとすぐに、島を東西に横断する山道への入り口になるが、アスファルトが敷かれてあるのはここまでで、あとは未舗装の峠道が続く。西海岸へ行くのに一番距離の短いこの道路は比較的頻繁に車が通るので、ある程度地の固まった道ではあるが、それでも石炭を積んだ大型トラックなどが削った小さな穴や、数日前までの雨のぬかるみからできた轍が所々にあるため、バスは蛇行運転を繰り返しながら進んで行く。道路の両脇には、短い夏を目一杯謳歌するかのようにぐんと成長した蕗や、小さな白い花をたくさんつけたウドなどが咲いているが、往来する四駆に巻き上げられた土埃をかぶり、それらの背後の単調な林に同化している。峠に入る前、バスのヒューズが切れた。車内は空調がきかず暑い上に、土埃を防ぐため窓を閉め切っているが、それでも容赦なく入ってくる乾いた粉塵で、息をするのも辛い。カメラの黒いボディは埃で白くなった。途中いくつか踏切があるが、遮断機はないので電車がせまってくるとバスは勢いをつけたりして、ひたすらマイペースに走る。ボルトが緩んだバスのシートの上では体が上下に跳ねるので、次第に気持ちが悪くなって来た。そんな道を30分ほど走ると、目の前に急に海が開ける。西海岸の街、イリインスキー。街の方へ少し走ると、バスの停留所のようなところに小さなキオスクが2軒あった。飲み物を買い、暑さと、埃と、バスの振動ですっかり消耗しきった体を風に当てると、まだ半分ある道程もなんとかこなせそうな気がした。