1-05

2013.02.09

新千歳空港の国際線、搭乗口に待機している客は30人ほど。わたし以外すべてロシア人だった。これまで3回のサハリンは全て夏で、墓参団について船で渡っていたが、冬に一人で飛行機で行くという何もかもが初めての状況だったので、緊張していつもより早く空港についた。しかし、機材やりくりの関係で出発は遅れに遅れていた。新たな搭乗時間は一向にアナウンスされないが、腹を立てる人は誰一人いない。むしろ午後の暖かい日差しの中で、みんな気持ちよさそうにまどろみ、大半が昼寝をしている。

ようやく搭乗を促すアナウンスが入ったのは午後3時。飛行機は2時間遅れで出発した。ユジノサハリンスクまでは約1時間のフライト。乗り込んだ機体は予定されていたDH-C800という50人乗りのプロペラ機ではなく、普通のジェット機でほっとした。早々にやってくる機内サービス。簡素なつくりのキッチンワゴンが、飛行機の激しい振動に揺られ音をたてながらやってくる。

離陸から30分をすぎた頃、窓から外を見下ろすと、うっすらまだら模様の白い膜のようなものが見えた。流氷だ。海面のすべてを覆っているわけではなく、それらの割れ目から見える海は、落ちてしまったら冷たさのあまり呼吸困難に陥りそうなほど濃くて黒い。戦後、北海道に引き揚げて来たのにも関わらず樺太に残った家族に再び会うために、小さな舟で逆密航した人たちがたくさんいたそうだ。いったいどれだけの人が、その願いを叶えることができたのだろう。そんなことを考えながら眼下の光景にぼうっと見入っているうちに、アナウンスが入る。機内の案内はロシア語のみ。きっとあと数分で着陸するのを知らせているのであろう。外はだんだんと薄暗くなり、街の明かりが近づいてきた。

機体の部品が風でとれてしまうのでは、と思うような「バタバタ」という不穏な音をたてながら着陸すると、機内には咆哮のようにドスのきいた「ウラー!(バンザイ)」が響き渡り、乗客からは拍手が沸き起こった。飛行機でたった1時間の距離は、短くも、長くも感じられた。