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2014.05.10

行者ニンニクが生のまま食卓に出てきた。まさかこのまま食べるのかと思いナージャに尋ねると、サラダにするか?と聞き返される。天ぷらで食べるのがおいしいよ、と言うと、「ハラショー(いいね)」と言って、ナージャはさっそく準備にとりかかった。ところが、行者ニンニクの束をつかんだナージャは、勢いよく全てをみじん切りにした。葉身を一枚ずつ薄く衣につけてサッと高温の油で揚げたさくさくの天ぷらを想像していたが、作っているものの様子がイメージと違うので、不安になる。小麦粉、塩、水。ナージャは血糖値が高いので甘いものはほとんど口にしないが、砂糖は大さじで山盛り5杯ぐらい入れていた。一体どんなものができあがるのだろう。サラミも細かく刻み、卵を5個入れた。卵は1個で充分だよ、と横から口を挟んでみたが、「シャフチョルスクのバーブシカ(おばあちゃん)から教えてもらった」だの、「ロシアはこうやって天ぷらを作るんだ」だの、反撃があったのでもう黙っていることにした。しかしそうやって目を離したすきに、こっそり6個目を入れるのが、視界の端にちらりと見えた。ごってりした衣、のようなものに先ほどみじん切りにした行者ニンニクをたっぷり入れた。もはやパンケーキをイメージした方が気持ちが落ち着くのではないか。第一巡を揚げ、味見をすると「ソイ、すこーし」とつぶやきながら、小皿に残る朝食に出された醤油を一気に注いだ。高温の油が全てをまるく収めてくれるだろうと自分に言い聞かせて、テーブルで黙って紅茶をすすった。
できあがったものはスパニッシュオムレツとさつま揚げの中間のような見た目だった。粗熱がとれたのを見計らって一口かじると、あれだけ入れた砂糖はどこかに消えていて、味のしっかりした衣のぶ厚いかき揚げといったところだろうか。一方のナージャは表情をひとつも変えず、うなずきながら手のひら大のそれをひとつを食べ終わると、あとはわたしに全部食べなさいと言わんばかりに、皿ごと差し出した。